東宝、ベネディクトプロ提携
/カラー・東宝スコープ/90分
昭和40年8月8日公開
(同時上映「海の若大将」)
(解説)
──事件の始まりは昭和35年。広島国際放射線医学研究所で破壊された細胞組織の再生を研究しているジェームス・ボーエン博士と助手の戸上季子は、浮浪児として追われていた奇妙な白人の少年を保護する。広島を襲った原爆の被害に耐えたほどの放射能に対する抵抗力を示した驚くべき少年の正体は、終戦直前、密かにドイツから日本へ運ばれた永久に生き続けるフランケンシュタインの心臓が成長した姿だった。
やがて見上げるばかりの巨人となった青年フランケンシュタインは、強引なテレビ局の撮影に激高し、駆けつけた警官隊の発砲をものともせずに病院から逃走。岡山、姫路、琵琶湖と騒ぎを巻き起こしながら北上し姿を消してしまう。ボーエンたちは何とか彼を救おうとするが、白根山のヒュッテや清水トンネルの工事現場で多くの人間が行方不明となり、食べ物に困ったフランケンシュタインの仕業だとして非難が高まる……。
ハリウッド俳優ニック・アダムスを招いて製作された初の日米合作怪獣映画。当初「ゴジラ対ガス人間」「ゴジラ対フランケンシュタイン」と二転三転した企画ながら、一貫して科学と人間の在り方をテーマに問いかける本多監督は、SFの原点である本家「フランケンシュタイン」への敬意を込め、ホラー映画のタッチを取り入れつつ生命倫理の問題に踏み込んだ重厚な作品に仕上げている。
第二次大戦末期、ナチスドイツと日本軍が不死身の兵隊を造り出そうとしていたという設定は、手塚治虫が『ビッグX』で描いた強化人間のイメージに重なり、当時の少年誌・週刊誌で流行した太平洋戦争秘話≠思わせる導入部は架空戦記もの、改変世界テーマのSFにも似た興味をかき立てる。また人間ではないものが人間を守るために怪獣と戦う≠ニいう和製フランケンシュタインのキャラクターは、円谷英二にとって『ウルトラマン』へと続く巨大特撮ヒーローのプロトタイプと言えるだろう。
凶暴なバラゴンに立ち向かうフランケンシュタイン。俳優が特殊メイクで演じるフランケンシュタインのスピーディーな動きに合わせ、着ぐるみ怪獣の限界に挑戦したダイナミックなバラゴンの操演は本作の見どころの一つ。なおアメリカ側の要望で撮影された、大ダコが登場する別バージョンのラストもある。
母親のようにフランケンシュタインに接する季子(水野久美)と怪童と呼ばれる少年フランケンシュタイン(中尾純夫)を演出中の本多監督。
和やかなリハーサル風景より、原爆関係者だった過去を持つボーエン博士を演じたニック・アダムス、その同僚で冷酷な一面も見せる川地堅一郎役の高島忠夫、もと海軍大尉でフランケンシュタインの心臓とバラゴン双方の目撃者としてボーエンたちに協力する河井役の土屋嘉男。ニック・アダムスは引き続き『怪獣大戦争』と谷口千吉監督のアクション映画『国際秘密警察 絶体絶命』(67年)にも出演した。
ボーエン博士と季子が休日を過ごすシーンの宮島ロケの一コマ。右から本多監督、水野久美、ニック・アダムス、通訳を務めたヘンリー大川。
出演
高島忠夫
ニック・アダムス(声=納谷悟朗)
水野久美
土屋嘉男
古畑弘二
志村喬
田崎潤
藤田進
中村伸郎
佐原健二
伊藤久哉
田島義文
小杉義男
ピーター・マン(声=熊倉一雄)
沢井桂子
井上紀明
高橋紀子
野村明司
桐野洋雄
沢村いき雄
佐田豊
山本廉
加藤春哉
西條康彦
中山豊
大村千吉
石田茂樹
田武謙三
向井淳一郎
中尾純夫
中島春雄
他
怪獣ファンの少年たちをドキドキさせたシーンを演出中の本多監督と水野久美、青年フランケンシュタイン役の古畑弘二
完成作品ではカットされた場面の演出風景より、バラゴンに襲われた白根ヒュッテのカップル役=井上紀明、高橋紀子と本多監督。
人間も動物も手当たり次第に食べてしまう肉食怪獣バラゴンは、氷河期を逃れて地底で独自の進化を遂げた古代恐竜の生き残り。発光器の役目を持つ角があり、口から熱線を吐いて岩を砕きながら地中を移動する。