東宝/カラー・東宝スコープ/89分
昭和38年8月11日公開
(同時上映「ハワイの若大将」)
(解説)
──大型ヨットでクルージングに出た青年実業家の笠井、その愛人のクラブ歌手・麻美、流行作家の吉田、大学の心理学助教授である村井ら遊び仲間の男女7人が嵐で遭難し、何処とも知れぬ無人島に流れ着く。水爆実験の影響を調査していたらしい国籍不明の難破船の中で暮らしながら、来るあてのない救助を待つうちに、食料や女たちをめぐって次第にエゴをむき出しにしていく彼ら。
だが、鳥も近づかないこの島にはもっと恐ろしい秘密があった。難破船内の鏡がすべて取り外されていたのはなぜか。マタンゴと名付けられたお化けキノコと島に群生しているキノコの関係とは? やがて動物の姿がいっさい消えたこの島に、7人以外の何者かが存在していることが明らかになる……。
「幽霊狩人カーナッキ」「異次元を覗く家」などの翻訳があるイギリスの幻想作家ホジスンの短編を基に、当時SFマガジン編集長だった福島正実がSF作家仲間の星新一のアイデアを加えて原案ストーリーを執筆。もともと一幕物のような原作から、病室・ヨット・無人島・難破船・マタンゴの森と舞台劇的な空間を設定し、少数の俳優陣の演技合戦で見せるという原案→脚本→演出のリレーが成功している。
放射能の影響で突然変異したキノコを食べた人間が、動物でも植物でもない第三の生物マタンゴに変身していくSFホラーだが、サバイバルの極限状況に置かれた集団内の葛藤や力関係の変化を追った心理ドラマとしても秀逸。本多監督は陶酔と引き替えに人間性を奪い、次々に仲間を増やしていくマタンゴに麻薬の恐怖を投影したと語っているが、それを「美女と液体人間」と同様に全体主義の暗喩と捉えるか、人類補完計画(新世紀エヴァンゲリオン)のような自己と他者の境界が消えた変型ユートピアとみるか、「藪の中」を思わせるドラマ構成も含めて様々な解釈が可能な作品である。
難破船にマタンゴ怪人(天本英世)が現れるシーンの演出中。各種マタンゴの造形やカビに覆われた船内のセットなど、特撮・本編が融合した美術設計が見もの
最期まで理性を保とうとした村井(久保明)に襲いかかるマタンゴ人間の群れ。結末は原案に沿ったものと2バージョンあり、映像の説得力を考慮して現行のラストに落ち着いたという
マタンゴの森のセットにて、村井の恋人・相馬明子役の八代美紀と。八代美紀は「モスラ対ゴジラ」や梶田興治が監督した「ウルトラQ 206便消滅す」などに出演
男たちを虜にする関口麻美役の水野久美。自ら発案した妖艶なメイクでマタンゴに侵されていく変身の恍惚感を表現した
出演者
久保明
水野久美
小泉博
佐原健二
太刀川寛
土屋嘉男
八代美紀
天本英世
熊谷二良
他
右から円谷特技監督、助監督の中野昭慶、撮影の有川貞昌ら特撮スタッフと打合せ中の本多監督
本編撮影の小泉一(左)は名カメラマン・三浦光雄に師事し、ほとんどの本多作品の撮影を担当。艶のある映像を創り出し、特にヒロインの美しさを際立たせた
海岸に打ち上げられた難破船のセットで、マタンゴも一緒にスタッフ、キャストの記念撮影(写真をクリックすると拡大写真が見られます。)
撮影台本の書き込み。笠井所有の大型ヨットあほうどり号≠フ上の7人の位置関係とカメラポジションが記されている