東宝/カラー・東宝スコープ/91分
昭和35年12月11日公開
(同時上映「金づくり太閤記」)
(解説)
──深夜の五日市街道で銀行強盗を追跡していた岡本警部補は、日本舞踊の家元・春日藤千代の屋敷の近くまで追いつめた犯人を見失ってしまう。忽然と姿を消した銀行ギャングと美しい家元の間に何らかのつながりがあるとにらんだ岡本は、新聞記者である恋人の甲野京子の協力で独自の捜査を開始。零落していた藤千代はなぜか急に大金を手に入れ、離反した弟子たちを集めて新作「情鬼」の発表会を開こうとしていた。
さらに事件が相次ぎ便乗犯まで現れるなか、ようやく手がかりを掴んだ警察は家宅捜索に踏み切り、藤千代を共犯容疑で拘留する。だが、真犯人と名乗る図書館員の青年・水野が現れて藤千代の釈放を要求。大胆不敵にも捜査陣の目の前で驚くべき能力を使って犯行を再現してみせた。彼は佐野博士の人体実験によって誕生した、体を自由に気体化できるガス人間だったのだ!
いわゆる変身人間シリーズの第3弾で、死体消失を扱った「美女と液体人間」、アリバイ・トリックの「電送人間」(60・福田純監督)に続いて密室の不可能犯罪に挑んだSFミステリ。犯罪サスペンスに古典芸能の世界の内幕と宇宙飛行に備えた人体改造実験という未来的設定を組み合わせた東宝ならではのジャンルミックス作品であり、美女と野獣≠站゚松の心中ものに通じるような悲恋物語としても高い評価を受けている。
ディテール豊かな木村武の脚本と端正な本多演出を得て、芸に生きる者の業を体現した八千草薫、人間でなくなった男の複雑な人物像を造型した土屋嘉男をはじめ、俳優陣の演技が充実。含蓄のある印象的なセリフのやりとりもさることながら、おしどり探偵のような主役コンビからクライマックスで劇場になだれ込む野次馬といった端役に至るまで、これほど登場人物一人一人のキャラが立っている映画も珍しい。
藤千代(八千草薫)を取材する京子(佐多契子)。右は藤千代に仕える忠実な鼓師の爺や(左卜全)
藤千代の屋敷のセットで台本を確認する土屋嘉男(藤千代を愛するガス人間・水野役)と八千草薫、本多監督
本多作品の中でも特に魅力的なヒロインを溌剌と演じた佐多契子と。ほかに「妖星ゴラス」「真紅の男」にも出演している
ヒロインに抜擢された新人・佐多契子をはさんで本多監督と円谷特技監督。本作では「マタンゴ」と同様に特撮が本編のサポートに回って見せ場を支えている
出演者
三橋達也
八千草薫
佐多契子
土屋嘉男
左卜全
田島義文
小杉義男
伊藤久哉
佐々木孝丸
山田巳之助
松村達雄
宮田羊容
村上冬樹
三島耕
野村浩三
松本染升
塩沢とき
山本廉
堤康久
中村哲
山田彰
他
新聞社に現れたガス人間を捕えようと、岡本と藤田刑事(三島耕)、ガス銃を持った警官隊が急襲するシーンの演出風景
京子が勤める東都新報のセットにて。右端は先輩記者・川崎役の野村浩三と社会部の池田デスクを演じた松村達雄
笑いがこぼれるリハーサル中の一コマ。中央は危険な人体実験を続けていた生化学者・佐野博士役の村上冬樹