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本多猪四郎監督エッセイ

伊福部昭と怪獣映画

同人誌「衝撃波Q」4号(1975年10月)より

 

 私と伊福部さんとの出会いは第一回「ゴジラ」であり、以来ゴジラ映画がある度にお付き合い願っている次第である。
 最初に「ゴジラ」の脚本をお渡しして読んで頂き、第一回打合せの時の伊福部さんの表情は果たして本当に作曲を引き受けて下さるかどうか心配した程、困惑の表情であった様に思い出される。脚本を読めば馬鹿でかい動物が暴れ廻る、云ってみれば此の世に存在しない奇妙な怪獣が主役の映画である。何んともつかみにくい心境であったに違いない。それよりも何よりもどんな絵柄の画面になるのか、第一回の打合せでは造る方の我々にも一応絵コンテ(今の劇画の様に、重要な場面を始めから終りまで絵にしたもの…。これを壁一面にはって、スタッフ一同が打合せをした)はあったが仲々実感が湧かない。
 そこで私はこの怪獣は原爆の生れ変りであり、その狂暴さは現代のあらゆる兵器もうけつけないものでありこう云うもの(原爆)は絶対にゆるせない。そしてその狂暴な怪獣を倒す何かを人間が造り出したとしたらそれが、又新しい怪獣になり得るのではないか、そんな恐怖を否定する事をテーマにしたい、と云う様な事を、誠に下手に、くどくどとお話した様に思う。
 伊福部さんは「あ、そうですか…」と判った様な判らない様な顔をされて、「…出来るだけ早く撮影された画を見せていただいて…一生懸命やって見ます」と引き受けて下さった。
 そして出来上がったのが今や世界中の映画館で世界中の人々に語りかけている「ゴジラ」のテーマ音楽である。
 伊福部さんの音楽(特に怪獣映画に於ては)の特長は、その音の層の厚さである。どんなゴウ音の中でもその音の底からちゃんと音楽として観客の聴覚に語りかける。
 ゴジラが暴れる。ビルが倒れる。ジェット機が飛び交う。ロケット弾が発射される。戦車が走る。それでも要所々々ではちゃんと、効果音とマッチして音楽の偉力を発揮する。
 これは伊福部さん独特のものである。
 音の厚さは、唯楽器が多いだけで出るものでない事は云うまでもない。音の組み合わせが、同数の楽器で編成されていながら、或はより少ない編成でも生み出される。この頃は映画館で、伊福部さんのテーマミュージックが響くと子供達は体を振って踊り出す。私のゴジラ映画では伊福部音楽は切っても切れない存在である。
 伊福部さんの音楽は国際的である。やたらに新しさをてらわない。じっくりと我が道を邁進する。多くの外国雑誌で私の怪獣映画の評判を聞いたり、本で読んだりするが、決って伊福部さんの音楽はほめられている。多くの外国の人々にも理解され親しまれている証拠である。
 私は映画だけのお付き合いであるが、益々色々な方面で活躍の伊福部さんに拍手を送ります。

 
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